研究紹介

(1)受精機構の分子メカニズム解明

マウスの精子は、精巣で産生された直後には受精能はなく、卵子にたどりつくまでにさまざまな分子修飾をうけます。我々はこの分子機構を、分子レベルから生体レベルに至る様々な手法を駆使して、その全容を明らかにしたいと考えています。こ れまで、哺乳動物におけるグリコシルフォスファチジルイノシトール (GPI) アンカー型タンパク質 究を進め、アンギオテンシン変換酵素 (ACE) にGPI-APを遊離する活性があり受精に重要な役割があることを見出しました。また、精子の受精能獲得過程において、ラフトの局在変化、GPI-APの遊離、Izumo1タンパク質の局在変化が連動しておこり、これらが受精能獲得に必須であり、さらにこれを誘導する因子のひとつとしてLipocaline2を見出しました。

ラフトの局在変化

精子成熟にともなう精子膜反応。精子は精巣で産生された直後には受精能はないが、雄や雌の生殖路内を通過する間に様々な分子修飾を受けて、受精能を獲得する。これまでの研究で、我々は、精子成熟と相関して、1.初期過程であるキャパシテーションにともなってラフトの局在変化がおこる、2.終期過程である先体反応にともなってGPIアンカー型タンパク質遊離およびIzumo1の局在変化がおこる、ことを見出し、この一連の反応を精子膜反応(sperm membrane reaction)と呼んでいる。

子宮内精子

雌生殖器における精子膜反応と受精能獲得。精子膜反応は、子宮内ではほとんどおこらないが、卵管内遊走精子の約40%、卵丘細胞層侵入精子の約70%、そして透明帯接着精子のすべてでおこっていることを観察した。すなわち精子膜反応は、雌生殖路の各所で階層的に起こり、精子の受精能獲得に必須であることを示した。現在、我々は、この反応が飛躍的に誘導される卵管内環境に注目し、これを引き起こす卵管内因子(仮称SMF-F)の同定を試みている。